前例が無いなら自分で作る!東京の仕事を金沢でこなす完全リモート社員 ── フローレンス須田麻佑子
written by 一緒俐(いおり)
前編に引き続き、後編となる今回は2016年10月から金沢でフルタイムのリモートワーカーとして働く須田麻佑子さんに、移住について上司へ相談した当時の心境や、リモートワークを始めたことで起こった社内での変化について語っていただいています。
須田 麻佑子(すだ まゆこ)
NPO法人フローレンス みんなで社会変革事業部/病児保育事業部 広報・秘書/採用担当 夫・息子の3人暮らし。フローレンスでは約1年の産育休を経て、復帰後は病児保育スタッフの採用を担当。産育休後は金沢へ移住し、2016年の9月からリモートワークで秘書業務も兼務。
金沢に移ったキッカケは「子育て」と「夫の仕事」
現在は金沢にお住いになりながら、東京・飯田橋にあるフローレンス本部のお仕事をされている須田さんですが、もともと金沢に移住されたキッカケは何だったのでしょうか?
須田 麻佑子(以下、須田):主に「子育て」と「夫の仕事」ですね。私は以前に夫と同じ会社で働いていたんですが、その時の勤務先が金沢だったんです。その時に金沢に対してとても良い印象を受けていたので、子育て環境も含めて、いつかは金沢に住みたいねという話をしていて。
その後、お互いに転職することになって、東京や千葉にも住んでいたんですが、このまま首都圏での生活をお互いに望んでいるのかと話し合った結果、やっぱり移住したいという結論に至ったんですね。
仕事については、どのように考えていましたか?
須田:私の場合、仕事に関しては最悪、何とでもなると思っていたので、ある意味「夫次第」でした。夫も勤務地を金沢に絞って転職活動をした結果、思った以上に早く内定をいただけることになったので、割りとすぐに引っ越すことが決まりました。そして、それに合わせるように私も金沢での仕事を探し始めました。
ドキドキしながら金沢でのリモートワークを上司に相談
最初は移住に合わせて金沢の会社への転職を考えられていたんですね。
須田:そうですね。大手の転職サイトを見てたりもしたんですが、ピンと来るものがあまりなくて。
都内であれば、魅力的な求人もたくさん見つかると思うんですが、その時、金沢の仕事として見つけたのは比較的誰にでもできそうな仕事ばかりで、私はそういう仕事がしたいわけじゃないんだよなと思って。
最初は勤務地が金沢の仕事を探していたわけなんですが、いつからか「今のフローレンスの仕事を金沢に持っていけるんじゃないか?」と考え始めて、それを上司に相談してみたというのが事の経緯でした。
そこで金沢への移住の話も含めて、フルタイムのリモートワーカーという働き方を提案されたわけですね。その時の上司の反応はいかがでしたか?
須藤:フローレンスは以前から新しい働き方に積極的に取り組んできているので、割りと柔軟に考えてくれるんじゃなかいかなとは思っていました。
ただ、私の担当業務はシステムやWebではなく、採用の面接をはじめ、事務的な仕事が中心でしたので、その点に関して認めてもらえるかどうか、ある種「評価」されているような側面もあったので、その部分については結構ドキドキしましたね。
結果的には上司に意外とあっさり許可してもらえたので、そこは本当に感謝でしかないですね。
金沢での現在の働き方
それでは改めて、現在の働き方について詳しく伺ってもいいですか?
須田:現在、雇用形態としては「時給制の正社員」として働いています。私は金沢に移る前までは通常通り月給制の正社員で働いていたんですが、フルタイムのリモートワークというのが初の試みでしたので、最初は業務委託でどうかという話もあったんですね。
ですが、私がリモートワークをするようになってから担当した業務が保育スタッフの採用と代表の秘書業務でしたので、プロジェクト単位になりがちな業務委託ではなく、通常の働き方に近い「時給制の正社員」という位置付けになっています。
勤務時間も決まっていて、今は8時半から17時半のフルタイムで休憩1時間という形になっています。
お昼休憩や仕事のスケジュールなど、ある程度ご自身で決められているんですか?
須田:そうですね。たまに打ち合わせが入ることもありますけど、基本はお昼のタイミングも自分で決められます。11時半からの時もあれば、13時からになる時もあります。その辺は前後の予定を見ながら取るようにしていますね。
リモートワークで仕事をして良かった点・課題点
リモートワークでお仕事をされるようになって、良かったなと思う点は何ですか?
須田:良かった点は、公私ともに色々ありますけど、一番は通勤時間ですね。「職住近接」ということで、今まで通勤に片道1時間から1時間半掛かっていたのが、私の場合は0分ですし、夫も15分程度になりました。それによって、家のことにも時間を割けるようになったので、本当に家事が溜まらなくなりましたね。
今までは通勤中というとネットニュースを見たりするくらいしかできなかったんですけど、そうではなくて家のこととか、子どものこと、自分のことに時間を使えるようになったのは本当に大きな変化だと思っています。
逆に課題だと感じている点についてはいかがですか?
須田:私はもともとおしゃべりなんですけど、今は状況的に同僚と話す機会が減ってしまっているので、しゃべるのが少し下手になったかなというのは感じますね(笑)そこは課題といえば課題ですね。
その課題に関しては、何か対策など考えられていますか?
須田:リアルな場でのコミュニケーションという意味では、必ずしも職場の人である必要はないかなと思っているので、代わりに保育園の保護者会であったり、PTA活動であったり、あるいは家庭内であったり、そういった場面でコミュニケーションの機会を確保するように意識しています。
リモートワークを開始して社内に起こった変化
▲東京・飯田橋オフィス内の様子
フルタイムでのリモートワーカーは須田さんが初めてとのことですが、社内でのコミュニケーションに関して何か変化はありましたか?
須田:そうですね。私自身もそうなんですが、どちらかというと私と一緒に働いたことがある東京のスタッフの方がスキルアップしたんじゃないかという印象があります(笑)
そうなんですか!?具体的にはどういう点ですか?
須田:「文章でのコミュニケーション力」や「相手の状況を想像する力」でしょうか。例えば、チャットでお互いに認識の相違がないように、わかりやすく伝えようと工夫する点ですとか、メールの往復回数が少なく済むように端的に伝えようとする姿勢ですね。
あとはリモート会議の際に相手がちゃんと聞こえているか都度確認するとか、会議中に話が少し飛んだりした時に、その場にいる人はニュアンスでわかることもあるんですが、その場にいない私に対して「あ、伝わっていないかも」というのを察知して補足で説明してくれたり。そういうファシリテーションのスキルは確実に上がってるなというのを実感しています。
それ以外にも、例えばリモート会議が始まる時間になっても開始されないという状況があった場合に、実は参加するメンバーの1人が今、横で電話に出ているために会議自体が少し遅れるというのも、その場にいる人はわかっても、こちら側にはわからないわけですよね。
それに対して、想像力が及ぶ人はやっぱり「こういう事情で、今会議の開始が遅れています!」と伝えてくれたりするんですね。
そういう「今まで対面では使わなくていい気遣い」を自然とできるメンバーが増えたのは、私がリモートワークを始めてから起こった社内の変化なんじゃないかと思います。
▲Web会議サービスAppear.inを使った、社内の「リモート飲み会」の様子
リモートワークを許可してくれた上司に言われた印象に残る一言
これまで1年ほどリモートワークで働かれてきたわけですが、特に印象に残っている出来事は何ですか?
須田:色々ありましたが、一番印象に残っているのは年末の最終営業日の時のことですね。
当時採用を担当していた人が私を含めて4人いたんですが、他の3人は「有給を取りたいです」という話をしていて、私は特に休む理由がなかったので、「どうぞ〜」って言って普通に働くことにしたんですね。
その日は無事に何事もなく終わったので、「これで年内の業務を終わります」という旨のメッセージを社内チャットに流したところ、私のリモートワークを許可してくれた上司がこう答えてくれたんです。
まず「今年もお疲れさまでした」というのと、それから続けて「みんな有給を取ってましたけど、だーすー(※)が金沢でしっかり働いてくれているという安心感があったから、お休みを取れたんじゃないかな!」って。
この件は私にとってすごく記憶に残っていて、やっぱり言われて嬉しかった言葉でしたね!
(※)フローレンスでは、社員同士をあだ名で呼び合っているとのこと。ちなみに須田さんは「だーすー」だそうです。
「金沢で働くリモートワーカー」だからこそできる働き方を追求
それでは最後に、須田さんの今度について伺いたいのですが、こういうふうに働いていきたいというイメージなどありますか?
須田:まず、私の個人的なところでいうと、フローレンスのことはもちろん大好きなんですけど、せっかく金沢にいるということもあるので、フローレンス以外のキャリアも少しずつ考えていきたいなと思っています。
フローレンスは「副業OK」になっているんですが、この間も社内で副業に興味のある人たち同士でApper inを使ってリモート飲み会をしたんです。その時に改めて思ったのが、私はサブという意味の副業ではなく、パラレルの方の「複業」に興味があるんだなと。
実際、少し始めているんですが、金沢にあるWeb広告会社さんのお仕事で、ライティング業務を少し手伝わせていただいています。
ただ、どちらかというと、それはサブの意味合いに近い副業になるので、それよりはリモートワークとか色んな働き方をしているというのもあるので、そういう働き方をもう少し金沢の人に知ってもらったり、地方の人にも知ってもらったり、というような仕事ができればいいなと思っています。
フローレンスでのお仕事についてはいかがですか?
須田:金沢でリモートワークをするようになって、自分の状況を意識的に社内に発信するようになったんですね。また、逆にみんなの日報もよく見るようになって社内の情報を積極的にキャッチアップするようになりました。
その中で、例えば「この人はこの業務でいっぱいいっぱいになってるな」と思うことがあれば、それをもっと効率的に対応できるような仕組みを考えていきたいと思っていて、物理的に離れた場所で仕事をしていると、そういったところが結構冷静に判断できるなと感じています。
そういった形で、今後は飯田橋の本部にいるスタッフがもっとやるべきことに注力できるような仕組み作りにも挑戦していきたいと思っています。
編集後記
「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」これを当たり前のものにするために、事業を通じて社会問題の解決に臨んでいるフローレンス。
そんな同社の働き方を見ていると、どの社員からも自分自身の働き方に対して「明確な意志」が感じられました。時にはそれが前例のないものであっても、組織としてチャレンジすることを良しとして、前向きに、快く応援していこうとする姿勢が、今回の取材を通して垣間見えた気がします。
改革を止めない組織の良き“ロールモデル”として、今後も日々新しいニュースを届けて欲しいと感じました!
認定NPO法人フローレンス